COLUMN

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2025.11.23

CASE STUDY_ AGRISCAPE 吉田夏織さん

AGRISCAPE(アグリスケープ)のシェフ吉田さんは、MINGのエプロンが出来上がってまだ間も無い頃、たまたまMINGに立ち寄ってくれた際に”見てすぐビビッときた”とワイナリーエプロンを選んでくれた。それから何年か経ち、メディアや取材の記事など色々な場面ですっかり使い込んだMINGのエプロンを身につけてくれている吉田さんの姿を何度も目にした。この味の出方はきっと普段からたくさん使ってくれているのだろうなと画面越しからも感じられて度々嬉しくなった。いつか必ず会いに行ってお礼が言いたいと長らく思っていたシェフがAGRISCAPEの吉田さんだ。

 

AGRISCAPEは札幌の小別沢にあるレストラン。お恥ずかしながら勝手に敷居が高いと思ってしまっていてなかなか行けずにいた憧れのレストランでもある。正直面識もほとんど無いし失礼ではなかろうかと思いながらも勇気を出して今回の取材を依頼すると、拍子抜けするほどに気さくにOKの回答をいただいた。当日は若干緊張しながら車を走らせ小別沢にあるお店に向かったのである。

当日はランチ前の忙しい時間にもかかわらずシェフはじめ皆さん快く出迎えてくれた。年季の入ったMINGのエプロンを身に纏い調理場に立つ吉田さんがちょうどグリルしていたのは、アグリスケープで育てられたという黒豚。他にも今日使うという野菜も色々と見せていただくことに。

アグリスケープでは年間約150種類の野菜、お花、ハーブを自分達で作っているという。ズッキーニひとつとっても5種類。この日はピクルスに使うという見たこともないくらい小さな食感のおもしろいきゅうりがあったり、ピカピカの採れたて野菜がキッチンに並んでいた。

今年で七年目になるAGRISCAPEは、ある玉ねぎ農家さんとの出会いから始まったという。自分達で鶏や豚、野菜を育てて料理を提供する、そんなレストランがあったら面白いよねという農家さんとの話に直感で面白そうだと思い、ゼロからアグリスケープはスタート。いつも直感なんですよ!と吉田さんは笑って教えてくれた。

 

今では ”循環型農園レストラン” として確立されているが、やろうと思って循環型にしたのではなくて、鶏を飼って、豚を飼って、野菜を作って、面白いと思って始めたことややるべきことをやっていたら《全てが循環している》ということに気が付いたという。例えば、調理で出たクズが豚の餌になったり堆肥になったり、周りの農家さんで出荷できない破棄するだけになってしまう野菜を羊や山羊にあげたり、近くの木工作家さんの元で出る破棄に困っていた木クズも家畜のバイオベットになる。他の人にとっては単なるゴミでも、自分達にとってはなくてはならない大切な資源になる。こういう小さなことの積み重ねが自然と”循環”に繋がっている。

調理場の一角には調理で出たクズ入れがあるがこれは家畜たちの餌になる。

さてレストランと隣接する畑へ!

CHEF’S EDIBLE GARDEN!! 吉田さんのハーブ畑には沢山の綺麗なお花が咲いている。華美な花ではなくて小さくてかわいいお花。「可愛いでしょ」「これも食べられるんですよ」とエディブルフラワーを摘む吉田さんはさっきまでのキリッとしたシェフの姿とはまた少し違って見えた。この場所では季節によって様々なお花やハーブが咲き、様々な料理の彩りになる。

「このエプロンは丈夫だから、熱いものを持つときにもこうやって裾を使うと便利なんですよね〜!」と吉田さん。

見せていただいたハウスの中には所狭しと色んな野菜が育てられている。吉田さんは元々種まきもしたことがなかったというが、農家さんに教えてもらいながら少しずつスタッフも増え、こうして今では年間 150種類の食材を作るまでになったのだそう。

今回見せていただいた畑の他にも、もっと大きな約 15倍もの広さの畑が近くにあるという。アグリスケープで提供する食事でいただける食材はほとんどが自分達の手で作ったものだけど、自分達だけで全てをまかなうのではなく周りの農家さんの野菜も積極的に使っているのだそう。”この時期はこの農家さんの枝豆が美味しいから使おう” だったり、「自分達で完結するのではなく人と人とのつながりが楽しい」と吉田さんは話してくれた。

畑だけではなくアグリスケープの敷地内には山羊や羊、豚、鶏もいる。自家製ハーブや野菜を使ったレストランは今の時代増えつつあるが、家畜までやっているところは全国的にもそう多くはないという。

4月生まれの子羊ちゃんや去年生まれた羊たち。優しい眼差しで羊たちに声をかける吉田さん。

200kgはあるという大きな夫婦の黒豚ちゃんも出迎えてくれた。愛情たっぷりに育てられる家畜たち。ついさっきまで、畑でハーブや野菜を見ているときには忘れていたが、ここで育てている生き物たちはミルクやチーズとしてはもちろんだが、肉にもなる。取材の初めに調理の様子を見させていただいたときには感じなかったけど、ここへきて改めて 【自分達で鶏や豚、野菜を育てて料理を提供する】ということの奥深さを目の当たりにしたような感覚になった。

MING / Winery Apron (British Cotton twill)
color Navy
Older : 43 months

 

デザインに一目惚れして購入してからの3年間、ずっと毎日のように使い続けてくれていたというこのエプロン。気づけば大事な仕事アイテムの一つになっています、と吉田さんの日々の仕事のお供に役立てていただけていることがとても嬉しかった。

 

このエプロンの良いところは?との問いに、「ペラペラのエプロンとは違って、しっかりとエプロンを身につけているという感覚が、仕事モードにさせてくれる。エプロンをつけると仕事モードに切り替わって、集中できる」と答えてくれた。もうひとつは ”ぬくもりの心地よさ” が気に入ってくれているという。「3年間ずっと毎日使い続けていたこのMINGのエプロンは、いよいよ色褪せて、漂白剤も目立つようになってしまったので表舞台にはたたなくなってしまったけど、仕込み用のエプロンとして毎日つけています。表に立つ用のエプロンとして最近工場製のエプロンを使ってみたものの結局何の愛着も持てずにいたんです。MINGのエプロンには人の温もりが感じられて、”ほんもの”を身に付ける心地よさがあります。」

 

取材中にアグリスケープのスタッフさんに、今回エプロンの取材でお邪魔していますとご挨拶していると『あ〜あのエプロンですか!いっつもつけてるあれですね!笑』とすっかり吉田さんのトレードマークのようなエプロンになっているのかなと思って嬉しくなった。

この場所はもともと背丈くらいの雑草が生い茂る場所だったというが、そこを整地して、畑で野菜を育て、家畜を育て、日々変化する自然を相手にそのときにしか表現できない食事を作る。そのここでしか味わえない食事を楽しみに各地から足繁くお客様がやってくる。名前をつけて愛情たっぷり大切に育てられる家畜たち。ミルクをチーズにしたり、もちろん家畜は肉としていただくのだが、今回アグリスケープのレストラン・畑・家畜・鶏や羊の鳴き声が響き渡るこの場所をじっくり見させていただくと、改めて食事のありがたみを感じるのはもちろんのこと、自分達が想像していたよりもっと本当の意味での循環を目の当たりにした気がした。

私たちもこの日はテラス席でエールも一緒にランチをいただいた。畑で採れたたっぷりの野菜と豚肉。エール用の野菜たっぷり犬用プレートはもちろん一瞬で完食してしまったが、私たちはいつも以上にゆっくり一つ一つの食材を噛み締めていただいた。特別な日に行く敷居の高いレストランだと思っていたけど、気がつけばとっても心地が良くてつい長居をしてしまっていた。畑は違えども、その地域に根ざして自分達にしかできないことを楽しみながらやっている人はやっぱりかっこ良い。そして吉田さんの気さくな人柄とカラッとした笑顔がとても印象的で、このエプロンは細かいことは気にせず使っちゃってますと、そんなシェフに使ってもらえることがとても嬉しかった。この3年間沢山使ってくれてありがとうございますとようやく直接伝えられてよかった。次は店内でゆっくりコースをいただこう。

 

text 岩谷麻美
photo 岩谷洸太郎

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