COLUMN

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2025.05.06

CASE STUDY_林さとみさん

4月のとある日、私たちはウキウキと若干ドキドキもしながら車を走らせ陶芸家の林さとみさんの工房へと向かっていた。林さんとは約2年前に出店させてもらったイベント ”LOPPISイコロの森” で隣のブースになったご縁で知り合った。イベント会期中いろいろおしゃべりをして、林さんの柔らかな空気感にとても惹かれたと同時に、開店すぐたくさんのお客さんが林さんのブースに集まってうつわを嬉しそうに選んでいて、その隣でまったり開店した私たちとのギャップに圧倒されたのが記憶に残っている。嬉しいことにイベント最終日、林さんが「作業に良さそう」「2日間隣で見ていたらとても気になってしまった」とMINGのエプロンを選んでくださった。

 

そんなご縁で今回、林さんの工房にお邪魔させていただいた。ぜひエールと一緒に来てください♪と私たちの愛犬の名前も知ってくれていたのがまた嬉しかった。作家さんの工房にお邪魔するのはなんだかとてもドキドキする。作品が生み出される場所は聖域でもある気がするから。到着すると林さんが玄関先から笑顔で出迎えてくれた。嬉しいことにMINGのエプロンを身につけて。

北海道斜里出身の陶芸家 林さとみ さんは、高専で工芸を学び、益子での修行時代に出会ったという 額賀章夫さん の作品に惚れ、2年越しで額賀さんに弟子入り。その後つくば市で作家活動を始め、約10年前に北海道へ戻ってきた林さん。窯をトラックに詰めての大移動がほんと大変でしたと笑って教えてくれました。

2年ほど前には今の場所へと工房を移し、自分達で少しずつDIYをしながら生活されています。私たちも昨年、店舗の移転で解体〜内装作業に明け暮れていたので、慣れない内装作業の大変さとやってもやっても全然進まない苦労を労い合いました(笑)

林さんの作品で林さんと飲む美味しい阿波番茶。話が尽きずしばらく取材という名のおしゃべりが続きました。

林さんの祖母とお母様が大切に使っていたという食器棚には林さんの作品がたくさん並んでいる。

昨秋の個展用に制作した作品も見せてくださった。実用性とはまた違った作品は値段がつけられなくて結局販売はしなかったという。作品について話している林さんはとても楽しそうで聞いているこちらまでワクワクした。

上の写真は2021年に師である額賀さんと一緒に4人展を行った時に買ったという額賀さんの作品と、昔から愛用しているという小鉢。可愛さと、素朴だけどとっても使いやすくてずっと気に入っているそう。”使いやすい”というワードは林さんがものづくりを行う上でとても重要で、作風はまた違えど師弟に通ずる芯の部分なんだなと感じました。

ろくろでの作業風景も見せていただきました。『しっかりした生地だけど、からだに馴染むこのエプロンは一生お付き合いしていけるなぁと感じています。ベルトの楽さも気に入っていて購入して本当に良かったです!』と言ってくださったのがとても嬉しかった。ファッションとしてではなくて、使ってこそこのエプロンは格好良い。色もこすけて土がついたエプロンを林さんがつけてろくろを回す姿を見て、改めてそう感じた。

『いつもろくろをやる時は、無心ですかね。土の状態を見ながら無心になってます』と林さん。普段は無心だと話してくれながらも私たちの次から次への質問に答えつつ、さっさっさと美しい流れで作業が進んでいきます。作業がしやすい高さの調整や、自分の作品を生み出すまでにどれほどの苦労があったのだろうと感じながら、とにかく見惚れてしまう作業風景でした。

日本にもともとある”しのぎ”という技法を変形させたプリーツワークに林さんならではの動きをつけたドレープが美しい。
ドレープと丸削ぎの技法は、林さんの作品の特徴ともいえる。

『エジプトが好きなんですよ』と林さん。初めて行った海外がエジプトで、一人でエジプトのツアーに参加したんだとか。特にペルシャや古代エジプトならではのラインやかたちや比率をものづくりに活かしているそうです。そう聞いてから改めて林さんの作品を見ると、見え方がまた変わってきておもしろい。シンプルなものこそラインの美しさや誤魔化しが効かないから難しく、自分自身のしっくりくるかたちを生み出したり、試行錯誤の時間が長い道のり。ひたすらに作品作りに没頭し、集中し続けるのは自分自身との戦いで大変だと想像に難くありません。

成形するときに使用する柄ごて。道具ってやっぱり魅力的だ。

『アートというよりも実用性のあるものを提供したいと思っている』という林さんはアーティストではなく職人というほうがしっくりくる。素朴なんだけど使いやすい。林さんの目指す”使いやすいうつわ”というものづくりは、私たちMINGの目指すものづくりと似ていると思った。飾っておくためのものではなくて使ってこそ、そのものの魅力を発揮するような、毎日でも、そして何年も安心して使い続けられるようなものづくり。

林さんの工房からは季節の木々が見られて開放感がある。集中力を要する作業場としてこの景観はなくてはならないもののような気がした。生業と生活がくっついているような、ものを生み出す上で大切にしていることや、生活する上で大切にしていることが私たちMINGと沢山共通していると今回初めて知ることができた。私たちが林さんに惹かれ、こうして会いにいきたいと思うのは必然だったのかもしれない。なんて大袈裟なようだけどそんな気がしたのだ。

愛犬のサマちゃんと林さん

取材という名のお喋りと、作陶の見学、そして愛犬サマちゃんとエールを交えてみんなでのお散歩を終えて帰路に着く。思い出されるのは林さんのキラキラした笑顔。作家としての林さとみさんだけではなく、林さんの人柄そのものを知って更に林さんの作品が好きになった。そんな林さんの生活にMINGのエプロンが馴染んでいて、これからも日々なくてはならない道具となってくれたらとても嬉しい。

 

そんなコラムを書いていたら突然「こんにちは〜」とMINGに林さんが現れた。なんだか嬉しいご縁を感じずにはいられない出来事だった。

 

text  岩谷麻美

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