COLUMN

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2025.10.05

CASE STUDY_ 小野雄大さん(Swallowtail garden)

石を積む職人。ある日たくさんの工具を積んだトラックがMINGの駐車場に停まった。嬉しいことにMINGのエプロンを見に来てくれたというそのお客さまは、仕事で使うために足捌きが良いようにエプロンをカスタムしたいとのこと。お仕事は何をされているんですか?という問いに庭師だと答えてくれたその方。・・?この方は!!?と店主は薄々ピンと来ていた。この方はきっと”Swallowtail garden”さんだと。スワローテイルガーデンさんとは何を隠そう店主(夫)が前々から庭づくりの憧れとしてずっとSNSで見ていた庭師さんなのだ。庭師という職人さんの中でもスワローテイルガーデンさんといえば”英国式石積み”の職人さんだ。

 

前書きが長くなってしまったのだが、そんな嬉しいご縁からスワローテイルガーデンの小野さんにMINGのワイナリーエプロンをカスタムしたガーデナーエプロン(仮)を作業で使っていただけることになった。北海道の現場仕事のために長期で北海道に滞在するという小野さん。このエプロンをつけて実際に作業をしている様子がいつか見られたら嬉しいなんてひっそりと思っていたら、石積みを体験しに来ても良いよと嬉しいお誘い。そのお誘いを間に受けた私たちは前のめり気味に石積み体験をしに、早速現場へお邪魔してきました。

現場に到着すると作業はもう終盤で、ズラズラッと石が積まれていた。まずこの初めて目にする美しい石積みに圧倒されてしまった。「ドライストーンウォーリング」ということばを聞いたことはあるだろうか?モルタルや接着剤を使わずにシンプルに人の手で石を一つづつ積み上げて壁を作っていくイギリスの伝統的な建築技法なのだが、構造はとてもシンプルで石どうしの重力と摩擦力を利用した伝統的な技法だそう。石のサイズや角度を細かに調節をして一つ一つしっかりと安定させながら石を積んでいく。材料も道具もシンプルだからこそ職人の技術とセンスがそのままに表れると感じた。純粋に”かっこ良い”と見惚れてしまう美しい景色。

そして現場の真ん中にはまだまだ大量の大小様々な石。この中からよさそうな石を持ってきて、水平をとって、こんな感じでハンマーで叩き割って〜〜そんな感じでやってみてください〜とあたかも簡単なようにスラスラと説明してくれるのだが、全くできる気がしない。とりあえず見よう見まねで石を手にとり削ってみたり叩き割ってみたり、1つの石をこねくり回すこと約1時間。1つ?2つ?積めたのかな?くらいの驚くほどのスロースピードで終始難航しながらも、初めての石積み体験は進んでいった。

小野さんにやり方を教えてもらう。見る分には簡単そうなんだがものすごく難しい。気合いを入れて私たちも小野さんと同じエプロンを身につけて絶好のフィールドテスト日和だ。

幼少期からもともと植物が好きで、植物に携わりたいという思いから造園業についたという小野さん。一つの植物にとどまらず、風景や景色全体をつくりたいと考えた。そうした思いから、植物を引き立て、空間を形づくるテクスチャとして “石” にたどり着いたという。石が積み上がった風景に魅了され、本場イギリスで石積みを学んだ小野さん。石は時に土のうとなり、時にベンチにもなる。『オブジェとして眺める石というより、暮らしの中で機能を持つ石に魅力を感じるんです』と小野さん。昔の石積みも ”地面を掘ったら石が出たから石を積もう” だったり、その昔の羊飼いや農夫が身近にある石を積んで農地の境界をつくったり、きっとその場にあるものを生かしたはず。ガーデナーとしてのポリシーは?という問いには、地形に逆らわず、自然のままに生かすこと。無理に手を加えず、その場にあるものを活かして空間をつくること。という小野さんの信念にとても共感できる。

 

 

木々に囲まれたこの現場は木漏れ日がとっても綺麗で、ゆらゆらと木漏れ日が石積みに映し出される景色がとにかく美しい。小野さんはこの光の入り方が見たくて、現場にテントを張って数日観察をしたんだとか。空間を作るということは、完成したら終わりではなくその先何年何十年先もその場にあり続ける。何気なく綺麗だな〜 と感じた石積みにゆらゆら映る木漏れ日までも計算済みなのだ。

鳥のさえずりと石を叩く力強い音だけが響き渡る。

実際に作業をしている様子を間近で見せていただくと、改めてこの生地のタフさを実感したと同時にリアルに使い込まれたワークウエア(エプロン)のかっこよさを実感した。常に石の上に膝をつき、石を抱え、重機を操縦し、リアルにこういう作業で使うには丈夫な素材が必須。よくよく話を聞いていると、丈夫なだけでなはくて作業着は立体的な作りも大切で、部分的に洗えたり、現場が終わったらリペアができるように生地を取り替えられたりできるような作りにカスタムするのも良さそうだと知ることができた。

みんな揃ってWinery Apron(Khaki)で作業
小野さんが約2ヶ月毎日のように作業で使用してくれたカスタムエプロン

そんな小野さんは洋服が好きで作業をしながらも色んな洋服の話をした。このMINGのエプロンは、フレンチならではの気の利いたデザインとシルエットの綺麗さ、労働服ならではの使いやすさや動きやすさを感じて選んだよ、と嬉しいお言葉。自然が好きだという話からスリップウエアやイギリス、リアルに使い込まれた着古したワークウエアの魅力、要所要所で好きなものへの共通点がたくさんあって、表現するものは違っても芯の部分は近しいものがあるのかもしれないと、図々しくもそう思ってしまう嬉しい出会いだった。

最高のフィールドテストが間近で見られてとても嬉しい時間であると同時に、自分達でモノづくりをして、そのモノを販売して、実際に使っている様子を間近で見ながら声が聞けるいう自分たちの仕事冥利につきる出来事だった。小野さんみたいな職人にはなれないけれど、その職人たちの日々の仕事を支えるタフで長く使えるワークウエアを作ることは自分たちにしかできないことかもしれない、とたくさんの学びを持って帰ってきた校外学習であった。

 

MINGのワークウエアの探求はまだまだ続くのである。

 

text 岩谷麻美
photo 岩谷洸太郎

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